衣装パワー、演技に華 勝負服は赤、でも青で「金」
芸術性が重んじられるフィギュアスケートで衣装選びは大切だ。機能だけでなく、選手たちは「足を長く見せたい」「スッキリとしたラインに」など、演技がより映えるようにと工夫もする。浅田真央(中京大)は衣装から「パワーを得た」経験を持つという。
◇
衣装に一つこだわりがある。「ジャンプが跳びにくいのはダメですね」。そのために「スカートは長すぎず、大きすぎないこと」。浅田は得意技を生かすことを最低条件とする。「まず第一は、普通に体を動かせるかどうか。そしてデザイン。自分に合っているか、そして、曲に合っているかどうか」。もちろん、楽しみもある。「きれいな衣装を着るのはワクワクするし、気に入った衣装だと演技しても気持ちがいい。ファッションと同じ感覚です」
浅田は近年、1シーズンに最低でも6着を作る。ショートプログラム(SP)、フリー、エキシビションの三つの演技のために、それぞれ2着。1着は予備だ。タチアナ・タラソワ・コーチに習うようになってからはロシア製が中心。専門のデザイナーや職人たちがいるという。1着約15万円。30万円を超す衣装を着る選手もいるそうだ。
一番思い入れがあるのは、小学6年生で初出場した02年12月の全日本選手権で来た藤色の衣装という。それは92年アルベールビル五輪銀メダルの伊藤みどりさんがかつて着たものだった。所属クラブの先輩。山田満知子コーチが着させてくれた。
「えっ、本当に私が着てもいいのかなと思いました。でも、着た瞬間、衣装の中にすごいパワーが入ってるって感じたんです」。その全日本で3連続3回転ジャンプを決めた。「みどりさんの『お古』を着た試合は結果も良かったんですよ」。優勝した04~05年シーズンの世界ジュニア選手権でも伊藤さんの「お古」を着ていた。
女子の世界選手権優勝者の衣装の色には最近、不思議なことが続くと、フィギュア界でささやかれている。06年のキミー・マイズナー(米)から、優勝者は必ずフリーで赤い衣装を着ているのだ。
浅田にとって赤は「勝負色」だという。過去3シーズン、終盤の大会のフリーの衣装は必ず赤色。08年の世界選手権はそれで優勝した。だが昨季は、同じ赤色の金妍児(キムヨナ)(韓国)に優勝をさらわれ、4位に終わった。「今ではあまり関係ないかなと思っています。そういうのは、あまり当てにしないようにしたい。一つだけ、小さなものでもいいから、赤をつけておけばいいかなって、今は思います」
コーチたちのアドバイスをもとに、浅田は今季の衣装を準備している。だが、企業秘密みたいなもの。シーズン前のアイスショーで本番プログラムを披露しても、衣装は別という選手もいる。シーズン途中での変更もある。五輪シーズン、浅田はどんな衣装を身にまとうのか。
実は、五輪の女子の衣装にも不思議な傾向がある。98年長野大会のタラ・リピンスキー(米)から優勝者のフリーの衣装は青基調。前回の06年トリノ大会、金メダルを獲得した荒川静香さんの青色の衣装はまだ、記憶に新しいが……。(坂上武司)
◇
<フィギュアの衣装> 国際スケート連盟のルールで「衣装は節度と品位があり、スポーツ競技に適したものでなければならない」とされる。最近まで女子シングルはスカート着用が義務だったが、この規定が廃止された04~05年シーズン以降はパンツルックの女子も増えている。男子はズボンの着用が義務づけられ、タイツ姿は許されない。
(2009年9月25日 朝刊掲載)