「トリプルアクセル譲れない」 浅田の挑戦は続く(ルポ迫真)
>浅田真央のコーチの佐藤信夫の拠点、新横浜スケートセンターは早朝から約20人の選手でごった返す。約10年前、浅田の登場でわき起こったフィギュアブームで選手数は膨れあがったが、リンク数は増えていない。新横浜のリンクは最近、冬タイヤの試乗会にも貸し出されるようになった。滑るのは1日最大でも3時間弱。浅田が佐藤を占有できる時間となると15分程度にすぎない。浅田の拠点、中京大アイスアリーナも他の選手と共有だ。ソチ五輪前のように貸し切ることはできなくなった。
「これからは思うように音楽はかからないし、やりにくいと思うよ」。競技復帰への覚悟を確認するかのように佐藤が伝えると、「いい勉強をしています」と浅田は答えた。大人になった浅田の変化を、佐藤が最も感じるのは氷上だ。技術は上がり、佐藤の教えの理屈をしっかり理解して滑っている。おかげでこれまでぶつ切りだった要素がつながりを見せる。「うまみ、ですよね。ベテランだから出せる味が出てきた」
経験が骨肉となっているのを浅田も感じている。「(以前は)大人っぽく見せたくてアップアップしていたけれど、(今は)何かを(無理に)作ろうというのがない」。自然に滑るだけで高い演技構成点が出そうだ。だから、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)のことを聞かれると、言葉を濁す。「もうベテラン。ジャンプの技術も大切だけれど、大人の滑り、自分の滑りを見てもらいたい」
フィギュアは端で見るのと違い、体力勝負だ。戦後70年、男女を通じて28歳を超えたシングルの五輪メダリストはいない。「今は考えていない」という2018年平昌五輪を目指せば27歳になる浅田。さすがに丸くなってきたのか。「そういうことにしましょうか?」と佐藤は苦笑する。余計なことを口にしない大人の処世術を身につけただけらしい。「トリプルアクセル、頑張ってますよ。やるなと言ってもやるでしょう。やらせなかったら気持ちがしぼむ」。練習では1日10本は跳んでいる。
ジャンプの難度を落としても十分戦えることは佐藤が一番分かっている。それでも諦めないのが浅田であり、だから今の浅田があることも。「僕も諦めない人間。だから今日までやってられるんでしょうね」。今年73歳と25歳、飽くなき2人の挑戦は続く。(敬称略)